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多汗症の治療

多汗症の治療にはいくつかの方法があります。


1.薬物療法

薬による治療としては、昔から胃潰瘍の薬として服用され、次いでに発汗を止める薬が用いられます。発汗を止める薬を内服すると、全身に作用して便秘や脈拍の増加、瞳孔の異常など様々な副作用が起こったり、必要な温熱性発汗まで止めてしまうので体に熱がこもってしまうことも予想されます。しかし、実際服用しても、大きな副作用はないようです。また、緊張を和らげるために、安定剤や抗うつ薬を服用します。


2.外用薬

20%の塩化アルミニウムを皮膚に塗布すると、発汗が減る事が知られています。皮膚に問題のない方、多汗症の方は、必ず試してみます。効果には個人差があり、汗の止まらない場合もあります。


3.ドライオニック

アメリカ製の多汗症治療器具です。手のひらや腋、足の裏に電気を流して一時的に発汗を減らすものですが、日本にこの器具を取り扱っている業者がないことから、必要な方は個人輸入していただくことになります。購入に関する説明書はお渡しできますが、全て自己責任となります。塩化アルミニウムと同様にドライオニックの効果には個人差があります。


4.ボツリヌス毒素注射法

本来は痙攣疾患の治療薬ですが、皮膚に注射すると、注射した周囲の発汗が止まることが知られています。しかし、掌や指先の様な敏感な場所に針を刺すこと、3〜4ヶ月で再発すること、保険診療は認められておらず1回につき平均9-10万円の費用がかかります。一度試しても良い治療と思われます。腋窩の多汗症には効果が認められやすいので、行っても良い治療と考えます。紹介いたします。


5.星状神経節ブロック、胸部交感神経ブロック

星状神経節ブロックは、赤面症や軽度の手掌多汗症の方に行われることがあります。このブロックは、頚部にある交感神経を局所麻酔薬ブロックする方法で、繰り返しブロックすることで症状を軽減する方法ですが、効果を見るために最低10回以上行う必要があります。

胸部交感神経ブロックは、レントゲン透視を用いて、肋骨の間から針を背骨の横まで進め、高周波熱凝固法や濃いアルコールを注射して交感神経機能を麻痺させて汗を止めるものです。この後述べる手術的な治療法が用いられるまでは、唯一長期的に手の汗を止める事の出来る方法でした。しかし交感神経ブロックは効果が不確実な上、数ヶ月で再発してしまうため、現在では特殊な事情のある場合以外行っていません。


6.胸腔鏡下交感神経節遮断術(ETS)

発汗の指令を伝達する交感神経を内視鏡を使った小さな手術で遮断するものです。

交感神経は背骨の左右を上下方向に走行しているものですが、手のひらの多汗症の治療では、これを第二または第三肋骨の高さで遮断、またはクリップしなくてはなりません。この治療法は、現在のところ多汗症治療の最終的な治療法です。この方法は一度行うと、掌の発汗を劇的に減らすことが可能で、しかも多くの場合、その効果は生涯持続するほど強力です。

当科では我が国でも最も早い1993年よりETSで多汗症の治療を開始しましたが、従来の方法に比べて発汗停止に優れているため、現在では保存療法で効果がなく、日常生活で著しく障害の起こし、この治療法を良く理解して強く希望する方に対する治療法となっています。

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胸腔鏡下交感神経節遮断術について


方法

この手術は全身麻酔で行われます。全身麻酔では手術中の苦痛がないのは勿論、手術中に鎮痛薬を点滴するので、目が覚めたときも傷の痛みがなく、手術を受けられた方は“いつの間に終わったのだろう”と言う感じを持たれます。麻酔は必ず麻酔専門医が担当いたします。

手術は、代償性発汗の程度を見極めるために片側だけ行って、夏を越してから代償性発汗が耐えられる方だけ反対側を行う場合と、どうしても両側を手術したい方との2つの方法があります。どちらかを選択するかは、主治医とご相談ください。

手術は、通常右側の脇の下の皮膚を3-4mm切開することから始まります。次いで肺を傷つけない特殊な針を使って、胸腔内に二酸化炭素ガスを送り込みます。このガスの圧力で肺が少し移動して、隠れていた交感神経を内視鏡で見ることが出来るようになります。

交感神経を捉えたら、内視鏡の先端についている電気メスを使って注意深く遮断します。交感神経が確実に遮断され、出血が起こっていないことが確認できたら、内視鏡を抜き、胸腔内に溜まっている二酸化炭素を追い出した後、傷を細い糸で閉鎖します。両側手術する方は、右側の傷が閉鎖できたら、直ちに左側の治療に取りかかります。

クリップで行う場合は、内視鏡とクリップを操作する2つの管が必要で、片側に2つの小さな傷口がつき、両側では4つになります。

この手術に必要な時間は、麻酔の準備や覚醒に要する時間を除くと、通常20〜45分です。傷の閉鎖は、糸が皮膚の表面に現れないように埋没縫合という縫い方で行いますので、抜糸の必要はありません。

クリップで手術後の時間が長く経つと、クリップをはずしても回復する可能性が低くなりますので、代償性発汗で悩む方はなるべく早期にクリップをはずすことをお勧めします。


手術後の効果

手術が終了しますと、その直後から手のひらの汗は止まり、指先に温かさを感じます。手の汗が止まると同時に顔面や首筋、胸の上の方の汗も止まります。

手術の効果は、手のひらの汗を止めるだけではなく、脈拍を少し減らす作用があることから、緊張したときに起こる動悸や赤面を抑制する効果もあります。但し手術の数日後に最後の<あがき>のように,手に発汗することがありますが、一時的ですので心配しないで下さい。

ヨーロッパでは堂々と演技を行うために、この手術を受ける舞台俳優がいると言われています。また、女性では顔面の汗が止まると化粧崩れしないと喜ばれる方もいます。しかし、この手術の最大の効果は、煩わしい手のひらの汗から解放されて、仕事や勉強に励むことが出来るようになり、他人と抵抗なく握手が出来るようになることから自信を持って人生を歩める様になることです。


手術不能

状況により、どうしても手術が出来ない場合があります。

結核、肺炎や胸部の外傷により交感神経と肺が癒着を起こしている場合は、内視鏡で肺が邪魔して交感神経を見ることが出来ないため、手術が出来ないことがあります。

肺嚢胞症という疾患は、肺の表面にこぶの様な脹らみが沢山出来る先天的な病気ですが、特に自覚症状がなくても癒着の原因となります。

また、交感神経のそばに大きな血管が接している場合や、脂肪が厚く神経をおおっている場合も手術が出来ない原因となります。癒着や血管走行の異常には術前検査で予想できないものが多数あります。事前にできない場合のこともご説明しておいて、手術中止は術者の判断で決定いたします。

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